「いいよ、でもその前に僕、今の会社辞めなくちゃ」「あ、そうよね、でも会社辞めるなんて、本当にいいのかな?」「大丈夫だよ、僕はもうそれなりなんだよ、実は」「変な言い方」「そうだけど、なんだかね、もう、いいかなって気分って事さ」「あたしにも、そんな日が来るかしら?」「もういいかなって思うってコト?」「そう」「それはないと思うよ。僕はちょっと色んな事を短い期間に詰め込み過ぎたんだよ。短い期間っていうか、そうだな、みんなが遊んでいる小さな頃からだったから、それほど短い期間でもないか。でも、詰め込んだところで、どんどん押し出されていっちゃってね、僕の持ってるトランクはいつも空っぽなんだよ」「そんなトランクなら、やっぱり捨ててもいいのかもしれないわね」「そうだろう?」「うん、そう思うよ。空っぽのトランクを引きずって歩くくらいなら、私と土間を作ってワインを売っていた方がよっぽどいい感じじゃない」「うん、ホテル・ファンタンゴを元通りにするって云う目標もあるしね」「お客さんは少ない方が良いな」「そうだね、ホテル・ファンタンゴの部屋数を減らして広く作るのもいいだろうな。一日限定2組にしちゃうとか。たちまち予約でいっぱいになって、ちょっとした話題になるかもしれないよ」「そうね、そのアイディアは私達に似合っているかも知れない。ふふ、そしてね、2組目のお客様は私達なのよ。いつも違う誰かとお喋りしながら食事をするのよ」「オーナーと食事か、それも面白いかもしれないな。でもシェフがいないじゃないか」「シェフは雇おうよ。でもそれ以外は全部2人でやるのよ。お料理もお手伝いするのよ」「そうだね、やっぱり料理は本格的なものにしたいね」「お手伝いしている内に私達も出来るようになれたらいいね」「そうだね、そうしたら本当に僕たちだけのホテル・ファンタンゴだ」「うん」女の子が帰っていった後、僕は会社を辞める為の準備を早速始めた。
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